第4部
〜 未来の歌 10曲 〜
歌が上手けりゃ あとは屁のカッパ
猫の眼に 額をのせて 泣く女…
歌が上手けりゃ あとは屁のカッパ
猫の眼に 額をのせて 泣く女
ずぶ濡れの 沖から 海月の盆踊り
嘗めてかかれば あんたの方が 傷つくよ
緋牡丹おんなの 啖呵めぐって 男が倒れ
五体の死体を 越えながら
くっきり 女も 紅を差す
一度は よろけた夢の 未来を建て直し
いずれはと どこかに消えたよ 影法師
世界の道には すべてが 懸かり
人間よりも 空気と酸素の息が 気に掛かる
わかるよ わかる お前の気持ち
女が過ごした裸の時間の 幾夜を超えて
囀るように舐めてみたから すぐわかる
どこからか 漏れて溢れる 女の声が
あんたの首を 絞めに来る
そんときゃ遅いよ はっきりと言っておくけどね
迷惑面して 嘗めんじゃないよ これでも
あたいは 女の器量 逆立ちしたって負けないからね
どん どん どどんと 頭の心筋 ゆらゆら揺らし
探してみようか どこに仕舞い込んだのか
辛子の指輪を 砂漠に埋めて 代わる月夜の夢 ふたつ
ひとつは屋根の底力 ふたつは泣いた女の唇に
刺して貫く ナイフの矢先
血まみれの わたしの声に 虹がさす
紅色の 紅色の 虹がさす 虹がさす
狂って歌うことも大事だよ
狂う 狂う わたしの心…
狂って歌うことも大事だよ
狂う 狂う わたしの心
まるで 頭の外に飛び出して
宙を舞うのよ なんとか止めて あなた
どこにいるの あなたは どこに
頭の外に飛び出して
わたしの心の歯車 狂って 喚いて 笑いだす
何も おかしくないのに なぜよ
笑っているの ほんとは あなたでしょ
そうよね きっと 狂ったわたしを指さして
笑っているのよ あざけっているんでしょう
いいのよ いいわ 好きなだけ
ばかな女の泣き言なんか 宙に
空に 放り投げ 笑えばいいのよ 好きなだけ
そうよ あなたは 賢いおひとですからね
わたし どうして あなたのようなひと
好きになってしまったのでしょうか
苦しいときほど 知らんぷり
おまえ自身のことは おまえだけにしか
分からんことじゃないかと
それって あまりにも つれない仕打ちだわ
狂ったの たしかに わたしのせいかもしれないけれど
狂わせたの あんたじゃないの
化けて出てやる 思い知らせてやりたいわ
なぜか 呪わずにはいられない
あなたは ほんとに きれいなお顔…
なぜか 呪わずにはいられない
あなたは ほんとに きれいなお顔
にこりともせず 佇むだけで
あたりの景色が ぼやけて見える
想い返せば 小学生 一〇歳にも届いていなかった
秋の神社のお祭りで 巫女に扮した美少女が
ふと 呟いた 呪いの言葉
やがて みんな 水に溺れて 死ぬ姿
きりりと結んだ唇に 鮮やか紅色 血の涙
あなたは ほんとに きれいなお声
普段は ほとんど しゃべらぬ子供
それでも一度 誰もが聴きたい 歌声を
盆踊り 夏の やぐら舞台で 歌いだす
なごやかな 村の衆の集まりに
天女のような 浴衣姿の 女の子
この村は いずれみんな 死ぬ定め
今年が最後のお祭りと 人の心を凍らせる
わたしが知ってる あなたの姿
はたちも二つ三つ 過ぎたあたりのお年頃
水に映して顔を見る その水面に映える美女の顔
いまでは人を殺して生きている 心を絶った女の姿
けっして あなたのせいではないのだが
大勢の人が死んで 少女だけ
奇跡のように 生き延びる
いまさら人を殺さなくても いいものを
あなたは 呪いつづけて 生きている
哀愁
優しかった おねえさん お嫁にいくとき 雨がふる…
哀愁
優しかった おねえさん
お嫁にいくとき 雨がふる
ひとりで 唐傘 さしてゆく
さびしく響く 鈴つけた
お馬に 揺られて 濡れていく
あなたは十五で嫁に行き
そのあと 便りも 絶え果てる
遠き山に 日は落ちて 夜毎に燃えるかがり火も
いまは 空しく 消えている
しんしん 雪の積もる 明けの日に
鳴くは 女の むせび泣き
私は昭和を超えて平成も貫き 令和の今にいる
美空ひばりの歌を聴き 三橋美智也の哀愁に
こころ打たれた記憶もあるが いまはそれらの
歌も涸れ 情緒を湿らす 愛もない
歌を忘れた女の夢は ゴミの山に 捨てましょか
それとも 嘘 偽りの 柳の鞭で 打ちましょか
いまでは誰も 象牙の船に銀の櫂
知ってるものなど おりません
せめては 夕空晴れて 秋風吹き
鈴虫の鳴く夜に 忍ぶ今
あなたと別れ 哀れな 最後
せめては 思い出しましょ 静かな秋の里
ああ 懐かしき母さんと
ただ二人 歌った歌よ さようなら
お舟に揺られて 帰ります
死ぬほど お前が好きなんだ
恋人よ オレはお前を 殺しに行きたい…
死ぬほど お前が好きなんだ
恋人よ オレはお前を 殺しに行きたい
二日酔いの 狂気が醒める その前に
お前の家の 戸口を蹴って
お前を殺しに 襲いかかりたい
絶体に 抵抗なんか しないよな
オレとお前の関係は
じゃれ合う時期も 疾うに過ぎ
人前じゃ 言葉も憚る
愛の迷路を 潜り抜け
オレはお前を殺すほど
芯から命を賭けているのが
なぜ 悪い
恋人よ オレはお前を 殺しに行くよ
ほとばしる 狂気の夢に 急かされて
お前の部屋を 叩いて 壊し
お前を逆さに吊って 縛りたい
拒むなんてこと ありえないよな
お前とオレのどちらかが
死ぬまでと 誓った仲だから
世間さまの誰からも
とやかく言われる 筋はない
オレはお前を 抱きしめて
暗闇の奥の夜の底に 連れてゆく
どこかで 明けの鐘が 鳴る頃にゃ
オレもお前も 黄泉の世界の旅人さ
二一世紀の演歌だよ
浮気な恋なら グラスのワイン…
二一世紀の演歌だよ
浮気な恋なら グラスのワイン
飲んで 騒いで すぐ 覚める
それでも 時には グラスから
クリスタルの 後光を 帯びて
深い愛に なることも
忘れられない 一夜を 越して
あとは雪崩の 傾斜面
真っ逆さま 炎の夢に落ちてゆく
とめどなく 愛の斜面は 急角度
いちど 嵌れば 二度 三度
気づけば 切れぬ 二人の 絆
錦の帯を 金糸に 編んで
迷える羊 いつしか 吼える
狂うという字を いや増しに狂い
愛の心も ついには 所有の欲に
切ろうとすれば 血しぶき 覚悟
愛の未練は 演歌の主題
時には フォークも愛に触れ
ロックは ひたすらセックスを
愛が壊れば ブルースに
歌は愛を紐解き 全裸を晒す
恥と遠慮が 噛み合う 仲に
血と血を交えて 死ぬほどの
あとは無明の闇が 残るだけ
禁断の橋だから渡りたい
When I was a little girl…
禁断の橋だから渡りたい
When I was a little girl
my mother said to me
Don,t get across there bridge over
でも 見たいでしょ この先を
橋を渡って その先に 進んでみましょ お嬢ちゃん
いいことあるよ ママの言いつけなんか 忘れましょ
ぐんぐんぐんぐん歩いていると ねえ あなた
小さな女の子の あなたにも見えてきたでしょ 感じても
ほんわか揺れる 心のうれしさ 見えてきたでしょ
小さな子なのに 大人のように じ~んと お胸がしびれて そうよ
お口が 空いて しまうのよ ね
よ~く 憶えておきなさい
この橋 いちどでも 渡ったら もう心は おとな
あなたも恋のお年ごろ
男子のことが気になって
想えばいつも 夢のなか
そうよ わたしが教えてあげるわ
恋に夢中になりさえすれば
お勉強なんか お止しなさい
お風呂のあとで鏡に映る あなたのからだ
きっと誰かが 待っている
ほしい ほしいよ と
ねえ 聞こえるでしょ 愛の囁き
あなたも おんな 眼を閉じて
両手を置いた乳房の奥に
あなたの心を誘う 恋の火が
さあ ご一緒に行きましょう
この橋 渡り その先に その先に
愛の骸(むくろ)を抱きに行きましょう
もう来るんじゃないよ こんなところへは
さあ もういいから お行きなさい…
もう来るんじゃないよ こんなところへは
さあ もういいから お行きなさい
いくら清めても すぐに汚される
すると 次に誰かがやってきて
綺麗になるまで吸い取ってくれるのさ
拭き掃除くらいじゃ この汚れ
綺麗なんかに なりゃしない
肺が真っ黒になるまで 誰かが吸い取らないかぎり
この街の 内蔵の奥まで腐っちまった汚い膿は
誰かが吸い取らないかぎり 取れないよ
膿なんだよ どろどろに腐り果てた汚れの傷が
いまじゃ悪化しすぎて手のつけられない有様さ
百万人の人間が百万回の汚物を吐いて汚したヘドロの街は
いまさら百万人の手で回復しようとしても手遅れさ
十年前には分かっていたことなのに
自分から率先して綺麗にしようなんて思う奴いなかった
いつかは誰かがやってくれるだろうと
お互い責任 他人に押しつけ廻って その挙句
気づいたときには もう 遅い
症状悪化し 目の前の傷口塞ぐだけじゃ間に合わない
膿が腐って メタンガスより酷い臭いに侵される
でも 不思議だよ
じわじわと次第に慣れてきちゃったのかね
臭いのに 臭くてたまらないはずなのに
みんな にこにこ楽しげに 歌って踊って酒飲んで
ヘドロの中を 転げまわって 平気じゃないか
だからさ もういいから お行きなさい
あんたのような臭いの分かるお人の来るところじゃないさ
いくら清めても すぐに汚される
この意味酌んで あんたは もう お行き
二度と来るんじゃないよ こんな酷い街になんて
ホラー
冬の歴史 きみは見たこと あるのだろうか…
ホラー
冬の歴史 きみは見たこと あるのだろうか
凍てつく冬でも 雪の冬でもない冬で
温い体温 くるまれながら
心の冬は意外にも きみの外で泣いている
投げ出され 誰にも相手にしてもらえない
心の荒野の 真ん中で
きみは孤独に串刺しされて立っている
動けない 一歩さえも踏みだせず
周囲(あたり)には 何も見えない風が吹き
一切の音の消えた深夜の黒い手が
心の襞を撫でに やってくる
黒い風 黒い音 きみの心に触れるとき
冬の心の時間が やってくる
背筋の凍る思いとは
ひりりと冷える冬の 寒さではなくて
まだ見ぬ 知らぬ 死の予感
孤独の影が
きみの心を 咽喉から口へと 押し上げる
きみの背筋の真ん中に
氷柱よりも鋭い 冬の声
誰もいないよ
お前の未来 もがき苦しみ 死ぬまで
独りきりの時間を過ごすのさ
骸骨よりも不気味な声で
冬の風
きみの心を裂いて 凍らせる
後悔を噛みしめる
数えきれない後悔に 満ちているのよ 人生は…
後悔を噛みしめる
数えきれない後悔に 満ちているのよ 人生は
楽しいことは写真帖の中に凝縮され
折々の その時々の 何げない挫折
悲しさや痛みの 茨や棘だけが
十年経っても 二十年が過ぎても
消えるより むしろ昨日のように近づいてくる
噛みしめれば 酸っぱく 苦い味
悪夢のような記憶もあって
ひたすら 首をうなだれるよりほかにない
ふたたびは還らぬ時間を恨むだけ
なぜ そのとき どうして
いまも思い出すたび いてもたってもいられない
わずか一瞬 ほんの二秒か三秒
眼をつぶるか 我慢をしておりさえすれば
わたしの人生 まったく別の景色になったはず
それが そうならなくて 結局は
いまのような人生 歩むようになったのも
宿命と割り切れば 簡単なのだけど
いや ちがう
わたしには こんなはずではなかった別の人生が
必ず あったはずだと自分に尋ねれば
あなたでなくても みんな そう
思い当たるはずの 後悔がある
まだ若い 二十六のあなたにも きっと
あるはず 唇を噛みたくなるほどの 後悔が